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研究期間

平成30年度〜令和2年度

対象者

埼玉県内の水稲栽培農家

概要

夏季高温による水稲の品質低下が問題となる中で、穂肥診断の省力化を目的に技術開発に取り組んだ。
ドローンを用いた追肥判断マップを作成及び撮影データの追肥診断基準を明らかにしたことにより、高効率な追肥診断が可能となった。
農林振興センターでの現地試験等を通じて、利用価値を実感してもらうことで導入を促進していく。

背景・目的

夏季高温による白未熟粒の発生

水稲は、穂が出てからの20日間の平均気温が27℃以上になると白未熟粒が発生し、食味や等級が低下する。
地球温暖化による高温の影響で、収量や品質の不安定化が主穀経営の課題となっている。


正常

白未熟粒

葉色診断に基づく追肥は、白未熟粒の軽減に有効だが時間が掛かる

ほ場にて葉色版を用いて生育診断を行い、葉色が4以下であれば窒素2kg/10a追肥を行うと生育不良の改善や白未熟粒の軽減などに効果があることがこれまでの研究で分かっている。しかし、埼玉県の主穀農家では経営面積が増え、一つ一つのほ場に時間が掛けられない状況にある。

ドローンを用いて生育診断の省力化

そこで、近年普及が進んでいるドローンを用いて、ほ場を撮影し、空撮画像に基づいて「彩のかがやき」の追肥の要否を診断する技術の開発を行った。

方法

ドローンを用いた水稲「彩のかがやき」の追肥診断マップの作成


現地ほ場における追肥診断マップ

ドローンを用いて、上空100~140m程度から空撮した多数の画像を合成して、1枚の大きな画像を作成したあと、植物の生育量の指標であるNDVIという数値に変換し、その大きさによって色分けをした。

この技術によって、7時間(空撮3時間、画像処理4時間)で200ha程度の面積の空撮マップを作ることができる。

NDVIとは?

植物は赤色の光をよく吸収し、近赤色光を反射することが知られており、この差は生育旺盛な地点ほど大きくなることが知られている。NDVIは、基本的に大きいほど生育が旺盛と言える。

使用した技術


機械 メーカー 製品名 写真・画像
ドローン DJI社 Matrice600Pro
マルチスペクトルカメラ
(ドローンに搭載)
Parrot社 Sequoia
画像処理ソフト Agisoft社 Metashape Professional

結果

追肥が必要になるNDVI値の解明

マップで色分けしたこのNDVIという数値が、いつ、どれくらいの値であれば追肥が必要なのかを明らかにした。「彩のかがやき」の収量や品質のデータをもとに、追肥(窒素成分で2kg/10a)による10aあたりの売上増加が、NDVIによってどのように変化するのかを解析した。その結果、早植栽培における中間追肥(移植後45~50日)では0.7~0.75(表1)、穂肥(出穂20日前)では0.7(表2)を下回るときに追肥すれば、収量の増加や品質向上によって売上は増え、追肥のコスト(2000~5000円/10a程度)を十分に上回ることがわかった。

表1「彩のかがやき」中間追肥の実施による売上の増加

NDVI 0.5 0.6 0.7 0.8
売上の増加
(円/10a)
28,000 20,000 13,000 4,000
表2「彩のかがやき」穂肥の実施による売上の増加

NDVI 0.5 0.6 0.7 0.8
売上の増加
(円/10a)
16,000 14,000 11,000 3,000

※表1,2は1等米価格12,400円と仮定し、収量、白未熟粒割合、かん長、タンパク質含量のデータを用いたモデルによって算出した。

成果の活用

  • 農林振興センター普及指導員や農協等、大規模生産者での活用を想定している。
  • 農林振興センターでの現地試験等を通じて、利用価値を実感してもらうことで導入を促進していく。

今後の課題

  • 追肥判断時期の拡充(実肥など)
  • 多品種での検討(コシヒカリなど)
  • 一発肥料体系での検討