
研究期間
令和4年度〜(継続中)
対象者
埼玉県内の茶業者
概要
2024年10月時点、県内茶園25か所にIoT温度センサを設置し、携帯端末で茶園温度を確認できる環境を構築した。
取得した茶園温度データ等を使用して萌芽状況を携帯端末で確認できる環境を構築した。
茶の生育情報をいち早く確認できることから、防除計画や工場の準備などの作業スケジュールを立てやすくなることが期待されている。
背景・目的
茶園の温度情報を知る
人間は暑ければ冷房をつけ、寒ければ暖房をつけるなど温度に合わせて生活をしている。農業も同じで温度などの環境情報を把握し、適切に育てないと生育不良や枯死することがある。また、温度から生育や害虫の防除適期を推定する技術も開発されている。そこで、茶生産者協力の基、埼玉県内25か所の茶園(2024年10月時点。2024年度中に10台の増設予定あり。)にIoT温度センサを設置し、携帯端末で温度情報を確認できるシステムを構築した。
萌芽とは?
芽が生長を始めることをいう。お茶の業界では「芽長が包葉の約2倍の長さになったとき※」と定義されている。
※日本茶業学会(2021):茶の科学用語辞典(第3版).日本茶業学会茶の科学用語辞典(第3版)編集委員会.
なぜ萌芽状況を把握する必要があるのか?
桜の開花予報を見て花見のスケジュールを立てることがある。お茶の萌芽も同様に、昨年と比較してどのくらい萌芽が早い/遅いのか、今どのくらい萌芽しているのか、などを把握することにより、防除や工場の準備などの作業スケジュールを立てることができる。
さらに、7割の芽が萌芽したときを「萌芽期」という。埼玉県が設定しているカンザワハダニの要防除水準では、この「萌芽期」に古葉の寄生葉率が20%(古葉を10枚めくって2枚以上に寄生)を超えた場合とされている。そのため、萌芽状況からカンザワハダニの防除要否の判断にも活用することができる。
方法
IoT温度センサ装置の開発
Sigfox通信により温度センサをクラウドにアップロードするIoT温度センサを電子工作した。作製したIoT温度センサはソーラーパネルにより常時電源供給をするように構築し、電源を確保することが困難な露天栽培でも運用できるようにした。
一番茶生育期における最低気温のプッシュ配信機能
開発した本技術を運用していく中で、茶生産者から一番茶生育期(3~5月)の最低気温をお知らせしてほしいという要望を受けた。そこで、同時期に気温が冷え込んだ日には、全25地点(2024年10月現在)について何℃まで気温が冷え込んだのかをプッシュ配信するように構築した。
萌芽状況を推定する技術
研機構農業環境研究部門との共同研究により、日平均気温を代入することで萌芽状況を推定する計算式を開発した。詳細は下記の論文に記載されている。
論文情報
Kensuke Kimura, Ken Kudo and Atsushi Maruyama(2021): Spatiotemporal distribution of the potential risk of frost damage in tea fields from 1981-2020: A modeling approach considering phenology and meteorology. Journal of Agricultural Meteorology 77, 224-234.https://doi.org/10.2480/agrmet.d-21-00011
使用した技術
Sigfox通信とは?
日常で身近な無線通信規格としてBluetoothやWi-Fiがあるが、他にLPWA(Low Power Wide Area)という規格もある。このLPWAという通信規格は、伝送速度が低速であり送信可能なデータ量が少ないというデメリットがある一方、広域通信を低消費電力・低コストで利用することができるというメリットがある。
また、Wi-FiにもIEEE 802.11ac(以下、IEEE 802は省略)、11ax、11beなどの規格があるように(初めて聞いたという方は電気屋さんなどでWi-Fiの箱を見たり、店員さんに聞いたりしてみてください。)LPWAにもSigfoxやLoRaWANなどの規格がある。
我々はLPWA通信規格のSigfoxを活用し、IoT温度センサ装置1地点当たり、月額約100円程度と極めて少額で運用している。
結果
2024年10月現在、埼玉県内25地点にIoT温度センサ装置を設置し、温度データを携帯端末で確認できるようになった。画面に表示される選択肢から任意のボタンを選択していくことにより温度情報を確認できるため、ユーザーはいつでも好きな時にリアルタイムの温度情報を確認することができる。IoT温度センサなどをすべて自作したこともあり、データが欠測となる場合もあるのが今後の課題である。
萌芽状況を推定する技術は、2024年度時点で埼玉県茶業研究所(入間市上谷ヶ貫)のみに対応しており、2023年のデータにおける実測との誤差は13.5%だった。また、萌芽期の推定誤差は2023年が1日、2024年が2日でした。他地点への拡大が今後の課題である。
今後の見通し
令和6年度中に温度センサの設置台数を35台に増やす予定である。
萌芽状況の確認可能地点を2~3地点増やすため、現在は生産者茶園での精度検証を行うため、データ収集などを行っている。
連携機関
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境研究部門